i -アイ-




"起こしたくない、このまま俺の手を握って、眠っていればいい"


そんな事を考えた。

そうしたいと思った。


「あーいーとー」


この空間が続けばいいと。

目を覚ましたら、また藍人の辛い日々が始まる。

眠りながら泣くぐらいなら。


「蓮……どうしたの」


ゆっくり目を覚ました藍人が俺を見る。

俺の頬に手を当てる。


「なんかあった…?」


俺は今、どんな顔をしているんだろう。

情けない顔をしているかもしれない。


「親父、帰ってきたぞ。行こう」


藍人は立ち止まることなんて望んでない。


どれだけ辛くても前に進むやつなんだと、このたった数ヶ月で理解したつもりだ。


「そっか、分かった」


俺の目を真っ直ぐ見て、頬から頭に手を移動して、ポンポンと撫でた。


「…んだよ」


「手、借りてたみたいだな。悪い」



手に目線を落とす藍人は、体を起こす。



「別に、こんぐらい」



「蓮は本当に良いやつだよな」



そう笑う藍人に、心臓がグッと苦しくなった。


腕を引っ張り、抱き締める。



「……蓮?」



こいつの苦しみを少しでも分かってやれたらいいのにな。

榛人さんの長ランを見た時の、藍人を思い出す。



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