i -アイ-
心から大切だったと誰もが分かった。
そんな人を亡くして、その理由を知るためにここまで1人で。
「はは、お前は優しいね」
そう言って、俺を抱き締め返して、
「ほら、慎さんとこ行かなきゃだろ」
クスクス笑う藍人。
おずおずと手を離せば、俺の顔を覗く藍人。
「ごめん、甘えすぎた。俺といるのしんどいだろ」
困ったように笑う。
しんどい。
けど、それは、助けたいと思うからだ。
「謝んな。」
立ち上がり、親父の書斎まで歩く。
ノックをすれば、入れ、と声がかかる。
「おかえり」
俺が先に入ってそう声をかけると、親父が、おう、と返事をする。
「慎さん、こんばんは。」
藍人が微笑んで話せば、親父も口角を上げる。
「待たせたね」
「いいえ、そんなことないですよ。それよりも、お忙しいのにお時間を頂いてありがとうございます」
余裕のある声と顔。
さっきとは打って変わって、i らしい振る舞い。
今隣にいるのは藍人じゃなく、 i なんだな。
「君に呼ばれたらすぐに来るよ。亮や利人と同様にね」
暁さんの親父さんと、御庄の次男。
i がどれだけ上の人間と親しいかが分かる。