i -アイ-
久遠藍人が何者かを知らなければ、問題は無い。
あの言葉は、そういう意味か。
藍人は、
御庄藍、なんだな。
榛人さんの娘。
藍人が亡くしたのは、自分の父親ってことか。
「蓮、どうしたんだよ」
藍人が珍しく動揺して、俺の頭を撫でる。
「何があった」
こんな時でさえ、何かを守ろうとしてる。
ゆっくり抱き寄せた。
藍人は何も言わずに俺が泣き止むまで背中を摩ってくれた。
俺が泣き止むと、
「瞼、腫れそうだな」
俺の頬を伝う涙を指で拭ってくすくす笑う。
「お腹減ったろ?慎さんが、夕飯食べていけって言うから俺も食べてっていいか?」
「いいに決まってんだろ?蓮。つか、お前泣きすぎ、早くしろ」
気付かなかったが、扉の前で親父が待っていたらしい。
「居るなら言えよ……」
「ああ?言う前に号泣したのは誰だよ。」
ふっと鼻で笑う親父は、先行ってるぞと歩いて行った。
「蓮、大丈夫か」
「ん、平気」
藍人の頭をポンッと撫でて部屋を出た。
三國さんと暁さんが藍人を藍って呼ぶ理由も分かった。
あの二人が藍人に執着する理由も。
きっと、俺が藍人が御庄藍であることを知ったことは、藍人に言わない方がいいということも。