i -アイ-




椎名さんが、叫んでる。


怖がらないでって、言ったでしょ。

大丈夫だから。


「は、……っはぁ、はっ」


「なんだよ、ヤッちまえば良かっただろ」


鼻で笑う男。


「あんな駅前で騒がれちゃ、来るしかねえだろ。」



「……だから、だろ」



花火大会の会場でなんか、騒いだって何も聞こえるわけが無い。


それに第一、あたしの耳が馬鹿になる。



「自分を好いてる女だぞ?1回抱いてやった方が悦ぶ」



「はぁっ……は、うるせえゲスが」



「ははっ、お前のそんな余裕ねえ姿なかなかレアだな」



盛られたのは、媚薬だ。

味で分かった。

危険ではない。


でも厄介なのが、この湧き上がる欲を発散しなければ治まらないということ。


何かを企てられてる日だとは思ったが。



「これ……碧さんが考えたの、か」



「いーや?碧さんは、このイベントはとうの昔に興味ねえよ」



「続けたのは、お前か。幹城」



「まあな。あのお嬢ちゃんも本気でお前に惚れちまったし、なら、俺らの手助けとして少し協力して、ってな」



「悪党か」



「はっ、今更だろ」



幹城、あとで潰す。

ああ、媚薬ってこんなしんどいのか。




< 267 / 457 >

この作品をシェア

pagetop