i -アイ-
椎名さんが、叫んでる。
怖がらないでって、言ったでしょ。
大丈夫だから。
「は、……っはぁ、はっ」
「なんだよ、ヤッちまえば良かっただろ」
鼻で笑う男。
「あんな駅前で騒がれちゃ、来るしかねえだろ。」
「……だから、だろ」
花火大会の会場でなんか、騒いだって何も聞こえるわけが無い。
それに第一、あたしの耳が馬鹿になる。
「自分を好いてる女だぞ?1回抱いてやった方が悦ぶ」
「はぁっ……は、うるせえゲスが」
「ははっ、お前のそんな余裕ねえ姿なかなかレアだな」
盛られたのは、媚薬だ。
味で分かった。
危険ではない。
でも厄介なのが、この湧き上がる欲を発散しなければ治まらないということ。
何かを企てられてる日だとは思ったが。
「これ……碧さんが考えたの、か」
「いーや?碧さんは、このイベントはとうの昔に興味ねえよ」
「続けたのは、お前か。幹城」
「まあな。あのお嬢ちゃんも本気でお前に惚れちまったし、なら、俺らの手助けとして少し協力して、ってな」
「悪党か」
「はっ、今更だろ」
幹城、あとで潰す。
ああ、媚薬ってこんなしんどいのか。