i -アイ-
「朝送ってく」
こちらを見ないでそう言った幹城。
「は?朝までここいろって?」
「俺が動きたくない」
「ああ、腰が」
「ちげえ。お前もこの時間に1人で帰りたくねえだろ」
なんだぁおい。
「あはは、俺に負けたの忘れちゃったの?」
からかうように言えば、顎を掴まれ凄まれる。
「それは関係ねえだろ。」
はいはい。
「まあなんでもいいけど。じゃあお言葉に甘えて。」
男は雑に扱うけど、女は大切にする人間だってことね。
あたしが女だって分かってれば最初から、そう言いたいんでしょ?
あたしは服を脱いでバスローブを着る。
ベッドにダイブしてスマホを見る。
少しして、タブレットを置いて眠る体勢に入った幹城。
あたしの方向を向いて目を瞑ってる。
仕事として済ませる。
そんなふうにこの人が割り切れるから言ったんじゃない。
割り切ろうとしてくれるから、念を押しただけ。
まあ、この人が悪いんだけどね。
悪いんだけど、憎めないのは、大切な人を失ったことがあるもの同士だからか。
……碧さんが榛人を失ったことを悲しんでいたら?
……自分で殺したのに?
そこが分からない。
悪党なら悪党らしくいて欲しいな。