i -アイ-
「分かってる」
寝癖を直して顔を洗って、部屋に戻ってきたそいつは、久遠藍人の顔に戻っていた。
このくらいの歳の女は、化粧に服に男に、色々やりたいことが山積みなはずだ。
その時間を全部、俺らとほぼ同じように使ってる。
「んだその目、やめろ」
目を見ただけで人の感情が分かるまで。
さすが、i だな。
「大丈夫だから」
ふっ、と鼻で笑って俺の頭を撫でやがった。
「お前は、碧さんに似てるな」
その言葉に、そいつは固まる。
「そばに居ると、しんどいところ、とか?」
ヘラっと笑う。
「1人で背負おうとするところ」
その言葉を聞いて少し俯く。
「腹減った、帰る」
何ともないような顔をして、出口へ歩いていく。
碧さんは生まれてからずっと1人だった。
一人で居れられない時間を作ったのが御庄榛人。
そしてあいつは、碧さんが1人に戻った時、自分も1人になった。
周りに人はいる。
けど、孤独だった。
……これ以上、深く考えるのはやめよう。
俺と違って、名雲碧も御庄藍も常人じゃない。
けれど2人が1番お互いのことを理解できる人間なんじゃねえかってことは、分かった気がした。