i -アイ-
「あの本も、あの人が選んだものだって分かってた。……椎名さんが俺の事を好きでいてくれるのも本当だって分かってた。ちゃんとあの人と話して、椎名さんにはお咎めなしでってお願いしといたし、大丈夫だと思うよ」
椎名さんの瞳から涙が零れる。
「ごめんな、さい……っ本当に」
周りの生徒がざわつく。
近寄って頭を撫でる。
「怖かったね。本当に大丈夫だから」
怖かった。
あたしも、本当は怖かったんだ。
言葉にして、気付いた。
「藍人、くん……?」
でも、この感情は押し殺す。
もう、許した。
「じゃあ、俺は帰るね。椎名さんも気を付けて」
しくったなぁ。
家に着いて、堰を切ったように泣いた。
自分が自分じゃない。
制御出来ない。
そんなことは久しぶりだった。
榛人が死んだ時みたいだ。
欲しくないものを欲しいと思った。
強くならないといけないと思った。
あたしは、椎名さんと、何が違うんだろう。
怖いと、素直に泣けることが羨ましい。
馬鹿みたいだ。
苦しい。
ヴーッヴーッ
スマホが震える。
画面を見ると、
『暁』
また、泣き虫だって言われるなぁ。
「何かあった?」
震えないように、聞いた。