i -アイ-
『……家に行く。待ってろ』
何かが壊れたんだな。
止まらない。
震えも、涙も、吐き気も。
鍵を開けて、入ってきた暁に抱き締められる。
何も言わずに、抱き締めていてくれた。
弱い。
まだあたしは弱いんだ。
ごめん、暁。
あたしの苦しみを感じ取ってるよね?
出したくないんだけどな。
弱くて、ごめん。
「三國が、お前に電話してみてやってくれって。俺じゃ、あいつは素直になれねえからって」
やっぱり、三國か。
三國にも謝らなきゃ。
ゆっくり呼吸を整える。
あたしが自分で選んだ道。
色んな世界を見てきて、こんな風に抗えない壁があることも理解してきたつもりだった。
「……笑えるよね。普通の女の子を目の前にして、羨ましいとか。……今更何考えてんだよって話だ」
そんなふうに少し強がっては言ってみるけど、暁からは離れない。
「ん」
暁はあたしの背中をポンポンと撫でる。
「しんどい」
あたしは、弱い。
碧さんは、吐き出す場所はあるんだろうか。
「誰に治めてもらったんだ」
少し、憤りの交じった声。
「あはは、それは墓場まで持ってくって決めたから教えない。その人、蜂の巣にされちゃう」
「なんで庇う」
「その人は、あたしに謝ったからそれでいい。おしまい」