i -アイ-
碓氷司side
「大丈夫か」
「ん、大丈夫。縫ってもらったし。少し休んだら帰っていいって。」
コンコン
扉がノックされ入ってきたのは、60歳ぐらいの医者。
「お、沢山人がいるね」
「鍵田先生、ごめんなさい無理を言って」
「鍵田先生お久しぶりです」
三國が頭を下げる。
「おお、橘の坊ちゃんか。大きくなったな」
「今日は藍がご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません」
「ははは、いいんだよ。藍、漸にも連絡をしておいたからね。」
漸……?誰だ。
「漸、さんに?……怒ってたかな」
珍しく狼狽える藍人。
「いいや、問題ないと言ったら安心していたよ」
「そっか」
俯く藍人。
「まあ、階段から落ちてその程度の傷で治まるのは、父親そっくりだな。」
「え?」
「榛人も、高校生の時階段から落ちて、そのぐらいの傷だった。まあ、あいつは藍と違って、受身取ったんだよ凄いだろって馬鹿みたいに自慢してたがな」
わっはっは、と豪快に笑う医者。
父親?……榛人?
「私が望むのは、いくら怪我をしてもいい。けれど、榛人みたいな死に方はするな。……まりあのように癌になるな。ただ、元気でいて欲しい。」