i -アイ-
顔を晒して喧嘩をすることは、ずっと避けていた。
女であること、家柄が特殊な生まれであること、両親を幼くして亡くしていること。
あらゆる偏見というカーテンを捨てて、顔を隠して i として生きた。
でもそれは結局、偏見に打ち勝つことが出来ないと思ったから。
あたしのままじゃ、勝てないと思ったから。
「蓮は、俺より強くなる。」
根性の腐った人間が蓮の足を引っ張るなら、あたしがそいつらを潰す。
だから、そのまま真っ直ぐにバカ正直に生きて欲しい。
人の心を動かすから。
ねえ、暁。
あなたもそう思ってるんでしょ?
「今は一緒に居られないけど、いつか俺も司さんと一緒に蓮を守りますから。待っててください」
ニコッと笑う。
「これ、蓮には内緒ですからね?」
4人の元に戻って、屋上に向かう。
その途中であたしのスマホが震える。
画面に表示されたのは
『A』
「ちょっと電話してくる」
暁にそう言って離れる。
「もしもし」
『もしもし、文化祭は楽しいかい』
「ええ、俺の女装姿見ました?」
『ああ、とても似合っていたよ』
「ありがとうございます」
どこで見てるんだろうなぁ。
分からないけど、連絡してきた理由はただ1つ。