i -アイ-
「この辺がいいんじゃないかな。」
親父の好みなど考えたことは無いが、あの人は自分よりも強いものを嫌う。
だから、フローラル系の甘めな香りを指さす。
手首に付けて香りを嗅いだ藍人は、
「え、こんな可愛らしいの好きなんです?」
キョトンとする。
その顔が可愛らしくて笑ってしまう。
「いいや、シトラスとか強めの香りは好まないと思うんだよ。まあ、俺は親父の好みは考えてないからグレープフルーツ系の柑橘の物を使うけどね。でも、初めて会うんだ。そのぐらい取っ付きやすい香りの方がいいと思ってね」
「ああ、そういうことですか」
ふむふむと頷く藍人は、高校1年生なのだと改めて感じさせる。
最近、家にいる時の藍人は、子供らしい。
込み入った話になると、驚くほど大人びた人間になるんだが。
「髪セットしてきますね」
衣装部屋を出ていく藍人。
名前に因んで藍色のスーツに紺に黒のストライプの入ったネクタイ。
ネクタイピンはシルバーのシンプルなもの。
洗面台の方に行けば、オールバックにセットする藍人。
「そんなにキメなくてもいいのに」
「最初が肝心ですよ?顔を覚えて頂かないと」
そんなことをしなくても、ひと目で覚えて貰えるよ。