i -アイ-
「はは、今御庄榛人に似ているからすぐに覚えてもらえるよって思いましたね?」
口の片端を引き上げて笑う藍人。
「まあね」
「そういうことじゃないですよ、碧さん」
「……どういうこと?」
クスクス笑う藍人は、セットを終えて俺を見て洗面台から離れる。
意図が掴めないな。
「俺の顔は、セールスポイントでしょう?」
低く呟きながら俺の隣を抜け出る藍人。
振り返れば俺を見て、カクンッと壊れた人形のように首を傾げる藍人。
その表情は不気味だった。
「使えますよ?この顔。」
ゾッとした。
この俺が。
笑える。
「……って、意味でわざわざ全部見えるようにしたんですよ」
ふっといつもの藍人に戻る。
借金を返済せずに自殺した親の、罪もない子供を泡や水にさせるのも、組内で薬をやった人間を始末するのも、仕事を失敗した人間を始末するのも、全て無心で出来るようになったのは、榛人を殺してからだった。
藍人のさっきの表情は、酷く息苦しいものだった。
悲しみ、恨み、怒り。
全てが凝縮され、瞳には光がなかった。
先程まで子供のように振舞っていた人間が。