i -アイ-
「碧さんなら、あの役に宍戸李麻を持ってこなかったのに」
グッと拳を握る藍人。
……俺じゃないことがなぜ分かる。
「幹城京馬、海崎紫呉なら俺に負けても逃げ道がある。だから、碧さんは俺の相手に抜擢した。まだ若いし、死を選ぶ確率は低い。それに、碧さんは抜擢した人間が失敗したとて殺すことはない。この世界から消すだけ。それだけでも相当その人間は辛い。死ぬまで逃亡生活になる。」
コーヒーをテーブルに持っていき、座る。
「鬼龍灯志さんは、碧さんとは対照で、失敗した人間は容赦なく殺す。鬼龍さんに着く人間は武闘派、碧さんに着く人間は頭脳派ってところですよね。」
珍しくよく話す藍人。
「確かに宍戸李麻は武闘派だけど、才能のある人だった。俺はあの人の人生が好きだ。強くて、けれど少し愚かで。……だからもう少しあの人の人生〈ストーリー〉を見ていたかった」
目を閉じる藍人。
確かに、その考えは頷ける。
けれど敵であるのに生かしておきたいなんて、自分よりは弱いと思っていなきゃ言えないことだ。
末恐ろしい子供だよ。
「南偉織は頭脳派なのに碧さんには着かないんだ?」
「南はその時々で着く側を変えるんだよ。利益のある方にね。」
「へえ、狐ってことか」