i -アイ-
「いつか、必ず話します。まだ、その時ではないだけです」
自分の手を見下ろして呟く。
「誰の指示で君はここにいるの?」
それは、あなたもじゃないか。
「碧さんは誰の指示でここにいるんです?」
あの手紙には全てが書かれていた。
だから、あなたのことも知った。
「もしかしたら、同じ目的かもしれませんよ?碧さん」
碧さんを見れば、ゆっくり瞬きをしながらあたしを見て考えている。
「『碧を頼む』」
前を見てそう一言。
「俺はその言葉を受けてここにいる。ただそれだけですよ」
本当の笑顔を見せて、
「そろそろ行きましょう。冷えてきましたし」
柵から離れて歩いていこうとすれば、腕を引かれ抱きとめられる。
「誰。碧を頼むって、誰に言われたんだ」
腕が震える。
あたしじゃなくて、碧さんの。
あたしが榛人に似ているから、その分怖いんだろう。
色んなことが。
「俺からは今はそれしか言えません」
「亮?」
初めてかもしれないな。
碧さんから亮さんの名前を聞くのは。
「違います。もっと、もっと自分勝手で馬鹿なやつです。」
碧さんの背中に手を回して、少し力を入れて抱きしめてから、碧さんの胸を押す。