i -アイ-
岸の顔を見上げる。
「人を置いて死んでく人間は、勝手だ。それでいて、嫌いになれないから困るよなぁ」
声が震える。
この人は、あたしと似た思いをしたんだと考えたら、震えた。
目の前で人が死ぬのを見るのは、初めてじゃない。
思い入れもない人間ばかりだった。
でも、今回は、その死んだ人間を大切に思っていた人が目の前にいて、どうしようもない感情を抱えていて。
「何故、泣いてる」
頬に生あたたかい物が流れていく。
「いい大人だからって、あんたは泣かないんだろ。なら、この俺が、ガキの俺が泣くからさ」
泣きながら笑えば、岸は眉間に皺を寄せる。
「俺は、守りたいものを守るために強くなった。俺は、碧さんを守るよ」
岸、あんたには本気さが伝わってもいい気がする。
「死んだ人間の意志を継ぐ。必ず。」
涙を拭って、踵を返す。
「お前は一体何者なんだ」
岸の声に答えずに歩いた。
部屋まで歩けば、部屋の入口に幹城が立っていた。
「大丈夫か」
「愚問だな」
「喧嘩の心配はしてねえよ」
心配症だな。
「大丈夫だよ。風邪引くよ?外ばっか」
「お前こそだろ。岸さんは」
「そろそろ戻ってくるんじゃない?」