i -アイ-
ドライヤーをかけ終えて、碧さんの方に振り返れば、腕を強く引かれる。
辿り着く先はいつも通り碧さんの胸の中。
こういうの何度目だろう。
「どこにも、行かないで」
心臓を握られたように苦しい。
痛い。
ずるいよ、それは。
「俺の隣に居るって、決めたんだろ」
いつもより、荒い言い方。
碧さんは、あたしを榛人と重ねてる。
だからこそ、苦しい。
今日は抱きしめ返さない。
消えてしまいそうだから、いつもは抱き締め返して安心させてあげたくなる。
けれど、ここにいるのは、御庄藍じゃなくて、久遠藍人だから。
「碧さん。それ、誰に言ってるの?俺?……違うよね。」
面倒臭い恋人みたいになってるかな?
グッと腕に力を入れた碧さんは、すぐに腕の力を抜いてダランと下ろした。
あたしが離れて、顔を見れば、瞳はいつも通り光の入らない漆黒。
「分からない」
分からないわけがない。
でも、相手は御庄藍じゃなく、久遠藍人だから下手に言えないよね。
「碧さんこっち見て」
こちらを見る碧さんの頬に手を滑らせる。
「俺はどこにも行かない。碧さんの隣にいると決めた。碧さんが一緒に居たい人と似ているだけだとしても、俺は碧さんを守りたいから。」
碧さんには、真っすぐ伝えた方がいい。