i -アイ-
知らぬ間に腕に力が入っていたのかもしれない。
首を横に振る。俺の胸に額を擦り付けるみたいに。
「震えてる」
ああ、そういうことか。
眠る時、体が震えるようになったのは、榛人を殺した日から。
「藍人、お前は人なんか殺すなよ」
「……愚問だね。宍戸は俺のせいで死んだ」
声のトーンは変わらず、呟く。
「あれは、宍戸李麻が死を選んだんだ。君がこれまで相手をしてきた人間で、死を選んだ人間は少なくないだろ」
i の有名な口癖。
生きたいならそれらしくしろ。生きるか死ぬかはてめえ次第だ。
つまり、死を選んだ人間も居るだろう。
「俺が相手をして死んで行ったのは、他人だ。なんの思い入れもない、勝手に死んで行った人間。……でも宍戸李麻は違う」
珍しく人間らしいことを言う。
「なあ、碧さん」
顔を俺の方へ上げる藍人。
「あなたが殺した人間が、本当は自ら死を選んでいたとしたらどうする」
背筋が凍る。
俺は起き上がり、ベッドを出る。
「どこへ行くんです」
怖い。
「碧さん」
やめろ。
俺が壊れてく。
やめてくれ。
「あなたが殺して後悔しているその人間が、あなたを恨んでいないとしたら」
「やめろ」