i -アイ-
「有栖川は渋木、アンタを信じてた」
臣さんが一言言えば、渋木はあたしに立ち向かってくる。
何度のしても立ち上がる。
ぜえぜえと肩で息をしながら、何度も。
「馬鹿はいいように使われる。けど、逆を言えば、馬鹿は信頼出来る。真っ直ぐで、忠誠した人間にはとことん従順だ。」
馬鹿を好く人間は、疑うことに疲れている。
「この世界で生きるなら、もう馬鹿は卒業しなきゃいけなかった。この世界から出て違う世界で生きるならそのままでもいい。ここで、アンタにはこの世界の中では死んでもらう。」
いいか?
そう聞けば、渋木は泣き出した。
あたしは渋木の肩をトンと叩いて立ち上がる。
「殺さないんだな」
渋木が呟く。
「俺に指示するってことはイコール殺さなくてもいいってことだ。でもまあ、2度目はないから、第2の人生楽しみなよ」
手を振ってその場を出て、近くに止まる車に乗る。
道路からは死角の場所に車を止めておけば、遠くから覆面のパトカーが数台近付いてくるのが見えた。
「大人しくなればいいけど」
大丈夫。
あの人の目は死んでなかった。
「藍人は優しいね」
「優しくないですよ。生きる方が地獄な人だって居ますから」