i -アイ-
「おーけい、後始末はお任せを〜」
「ありがとうございます」
あたしはすぐに碧さんの前に座る。
「碧さん、怪我、ないです?」
「藍人、どういうことだ」
感情の乗らない淡々とした声。
あたしへの信頼が何処かに消えたらしい。
あたしの中で何かが壊れた。
ダメだ。
全部、終わったんだ。
そう思ったら、笑いたいのに涙が出てくるな。
「碧さん」
名前を呼ぶのがやっとで、手が震える。
涙で碧さんの顔がぼやける。
震える手で、碧さんの頬を包む。
「もう、いいんだ」
かっこ悪いなぁ。
でも、それでも、伝えたい。
「……藍人」
「もういいんだよ」
この人は、榛人を愛していて、守りたくて、でも、でも……
「守ってくれて、ありがとう」
碧さんを抱きしめる。
子供のように泣きじゃくる。
「……藍人、ちゃんと説明してくれなきゃ、分からないだろう?」
落ち着かせるようにそう言ってくれる碧さんも、あたしの状態に動揺しているらしい。
「……うん、ごめんなさい」
子供みたいな嗚咽を繰り返しながら、少しずつ息をする。
「碧さんの守りたかったものは、何?」
答えられないよね。
「碧さんの愛していた人は、誰?」
これも、答えられない。
「碧さんが、本当に守りたかった人は……?」
『碧はどちらも守ろうと必死で動いてくれた』