i -アイ-
あたしの父親は、御庄榛人(ごしょうはると)。
利人さんの兄で、生前は次期取締役社長だった。
けれど、あたしが小学生の時に事故で亡くなった。
そしてあたしの母親は、御庄まりあ(ごしょうまりあ)。旧姓久遠まりあ。
華道の名家である、久遠家の次女。
あたしが中学生の頃に癌で亡くなった。
両親がいないあたしは、利人さんに引き取られた。
この【Hawk】という店は、榛人が生きている時に利人さんが起業した店で、榛人が亡くなってからは依頼に応じて運営しているお店。
利人さんは榛人の代わりに仕事をこなして、あたしを育ててくれている。
あたしがお風呂から上がり、着替えをしてリビングに行くと、丁度利人さんも作業を終えたらしく、
「俺も入ってくるわ」
「うん、ごゆっくりー」
オイルの香りがする作業着を脱ぎながら、脱衣所に消えていった。
あたしは4月にこの家を出て一人暮らしを始める。
ずっと、やりたいことがあったけれど、利人さんや利人さんと榛人のお父さんで現取締役社長である漸さんに反対されていたことがあって。
でも今回は説得を重ねて、条件をいくつか飲み、実行できることになった。