i -アイ-
暁は、俯いて考えている。
「あと、お前のことはやっぱり覚えてない」
藍、あいつは、暁のことを覚えてない。
榛人さんが亡くなる前の暁の記憶があいつにはほとんどない。
それが何故なのかは分からない。
暁を忘れたあいつには、分からないんだ。
……暁の苦しみが。
暁の1番大切なものの親を殺したのが、自分の親かもしれない。
そして、藍は身分を隠してこの学園にやってきた。
普通に考えれば、藍は榊亮を恨んでる。
藍が俺らより強くなった理由なんて、1つしかない。
榊亮への復讐。
だとしたら、ここへ来て暁へのコンタクトを取ろうとしてる。
「あいつは何考えてんだろうな。今のあいつの動きを見る限り、ただ友達作って学校生活を楽しむ生徒の一人でしかない。でも、利人さんや漸さんを説得してまでもここに来た。」
「……あいつのしたいようにさせる」
ゆっくりとそう呟いた暁。
「……ん。そうだな」
俺は立ち上がって暁の頭を撫でてやり、キッチンへ向かう。
『暁くん、大好き』
なんで、あいつは暁のことを忘れたんだろう。
俺よりも暁を大事にしてた、あいつが。