i -アイ-
「佐藤太郎とか、もっと分かりづらい名前にしなよ。じゃないと、榛人を知ってる人なら皆分かっちゃうよ?ね、藍ちゃん」
クスクスと笑う槙野祥先生。
「そっかぁ、やっぱり娘ちゃんは榛人似かぁ。それにしても、似すぎじゃない?俺、幽霊でも見たのかと思って驚いちゃったよ」
楽しそうに笑う先生。
でも、
「わー、ティッシュティッシュ」
少し泣いているらしい。
「歳だね。驚いて涙出てくる」
「……先生」
「あ、大丈夫だよ。内緒にするから。……なんか、榛人と話してる気分になるね。しかも、榛人よりチャラそう」
優しい話し方。
この人が榛人と本当に仲が良かったなら、
「榛人には良くしてもらってたんだ。REIGNでも無かったし、御庄とか榊に比べれば小さい会社の一人息子で。……榛人は俺の絵を気に入ってた」
そう言って、描き途中の絵に指を滑らせる。
「途中で倒産しちゃってさ、通えなくなりそうだったんだけど、榛人が学長にこの絵の才能があれば秀才枠でいいだろって掛け合ってくれて、無事一緒に卒業できたんだ」
懐かしそうに話す槙野先生に、あたしは涙をこらえるのに必死だった。