i -アイ-
佐瀬組の狙いが俺らを引き抜く、それだけじゃないと、そんな考えがチラつく。
「ごめぇん、僕、縄張り意識ないからさぁ」
銀髪の男と同じような話し方だけれど、違う人間の声がする。
キィッと扉が開くと、黒のフードの男が現れた。
「おっじゃまっしまーす」
そう言って外の監視役をしていたと思われる男を、引きずって中に入ってくるそいつは、
「……あらぁ、いらっしゃい、i 」
銀髪の男が眉を八の字にする。
悲しそうなその顔が、とても不気味だ。
「その子、連れて帰りたいなぁ僕」
俺を指さす黒パーカーの男は、口元しか見えない。
「はーぁ。もっと楽しむ予定だったのに、君が来ちゃったらお仕事しなきゃじゃん」
片手を上げて、振り下ろした銀髪。
それが合図。
男たちが i に向かって歩く。
i は俺の前に立つ。
そして俺は、耳を疑う。
「早速かよ。帰路に気をつけろって言ったよね?」
その言葉で、三國の話をやっと理解した。
i は滑るように急所だけを狙い、いとも簡単に男たちを再起不能にさせる。
「あーつまらない」
銀髪は、俺とは真逆の人間だった。
目先の欲望に忠実なように見えた。
ポケットからおもむろに出したその鋭利なものは、ナイフ。
ライトの反射でキラキラと光る。
i と最終的に対峙した銀髪。