i -アイ-
「ねーえ、京馬くん、どこへやったの?」
知らない名前だ。
「知らない。どこに行ったんだろうね。でもあの人は利口だから、もっといい就職先見つけたんじゃない?」
あいつは、俺らの知らない世界を知ってる。
「そっかぁ。気に入ってたのにな。」
一気に i と間合いを詰め、ナイフを振り回す。
とはいえ、考え無しに振り回している訳ではなく、使い慣れた様子だった。
けれど、i はしなるように避けていく。
そして、銀髪がナイフの持ち方を動きに合わせ変えているのを観察し、変える瞬間にその手の手首にストンッと拳を振り下ろした。
落とされたナイフを足で蹴飛ばし、銀髪のピアスを躊躇なく引っ張った。
飛び散る血に、俺は息をするのを忘れた。
「……ぐぁ…はっ、てめえ」
「あっ、ごめん、邪魔くさくて」
ヘラッと笑ったi。
その挑発に、痛みからか冷静さを失った銀髪は攻めまくる。
片耳から流れる血が飛び散る。
銀髪は目を剥いてiに襲いかかるが、俺でももうどちらが勝つのか目に見えていた。
地面に頬をつけるのは、銀髪だった。
「海崎くん、結構気に入ってたんだけどな。残念」
まるで好きなアニメのキャラクターが死んだかのように、気の抜けた軽い調子で呟く i は、自分に着いた血を銀髪の男の服に拭う。