愛の深さに溺れる



だって彼は、


「久しぶりだね、安田さん」


___俺が海老塚さんから引き離した煩わしい男。


「また、ここに居るんですか」

「また?それは今日も、だよ」

「アンタみたいな人に捕まった海老塚さんが可哀想です」

「何言ってるの、逆だよ」


そう、逆だよ。俺に捕まったからこそ彼女は幸せなんだよ。

自信ありげに話す俺を見た安田さんは明らかに引いた顔をした。


「俺は貴方が怖いですよ」

「そう」

「彼女は…海老塚さんは本当の貴方を知らない」

「そうだね」

「もし何事もなく海老塚さんを幸せにすることが出来るなら、海老塚さんは何も知らない方がいいです」

「うん、俺もそう思うよ」


もちろん今までの事を彼女に知られることなんて絶対にしないし、させないけど。


「それより安田さん早く仕事に戻れば?」

「……」

「もう時間でしょ」


早くこの場を去れと言わんばかりの言葉の圧と笑みを浮かべ、彼は一瞬ゴクリと唾を飲んだ。


< 22 / 25 >

この作品をシェア

pagetop