初恋は報われないというけれど、
「ねぇ、マユ。甲斐谷がマユのこと呼んでない?」



体育なんて一年中室内でいいのに。


なんでよりによって寒くなってきたこの季節に、外でマラソンなんかするんだろう、と不貞腐れながら校庭を走る私に、3周も差をつけて追いついてきたアツコが声をかけた。



「え?甲斐谷?」



アツコの指差す方を見れば、サッカーコートの脇で、甲斐谷がこっちへ向けて手招きしている。



男子はサッカーで女子はマラソンって、なんとなくズルく感じるのは私だけなのかな?


とかなんとか思いながら、先生の目を盗んで甲斐谷の方へダーッシュ!



「遅いよマユ」

「これでもっ、全力疾走なんだけど…っ」



息切れ切れに甲斐谷のところへ行くと、ケラケラと可笑しそうに笑う甲斐谷がいてムッとする。


人の不得意分野を見て笑うために呼んだのか?



「なに」

とあからさまに不機嫌な空気を身に纏えば、甲斐谷はガサゴソと自分のポケットを漁って、何かを私の手に握らせた。



「あったか………」



それは、甲斐谷の手の温度に対して思わず零れた言葉だった。



「だろ?カイロ持ってるなんて優秀だよな?な?」



だけど、私の言葉を勘違いしている甲斐谷はピースを作って笑う。


にっ、と笑う無邪気なその笑顔が、好きだなって思って、あぁ、ダメだって自分に言い聞かせた。
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