初恋は報われないというけれど、
「寒そうなマユにあげるよ。大事に暖を取れ」

「あ、ありがと」

「じゃあね」



甲斐谷のカイロが、じんわりと冷えていた指先をあたためる。


あぁ、嫌だ。嫌だ。

こんなことで嬉しくなっていたらダメなのに。



どうしようもなく溢れてくる気持ちに、気づかないふりができない自分がすごく嫌だ。



ダメ、ダメなんだよマユ。


これは、報われない恋だもん。


終わらせなきゃいけない恋なんだもん。


これ以上気持ちが大きくなっちゃダメ。




わかってるでしょ?




「マユ、ニヤけてるよ」

「わっ、アツコ!」

「表情に出すぎ。これでよく甲斐谷も気づかないもんね」



呆れたように甲斐谷を見るアツコの視界を指で塞いで、周りにも、そして甲斐谷にもバレませんようにと祈る。



「こら、藤岡(ふじおか)!マラソン中に何してるんだ!」

「う……っ、ごめんなさい」



アツコのせいで怒られたけど、横目でチラッと甲斐谷を見たら、夢中でサッカーをしていたからよかった。




………たまにくらいなら外での体育もいいもんだ、なんて。


思ってないよ、一ミリも。
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