アンブレラ
苺のパフェが運ばれてくると、菜穂は丁寧に手を合わせた。
「いただきます」
細いスプーンを器用に使って食べ始める。

「おいしい」
「亜梨紗は太るから嫌だって言って、そういうのは食べなかったけどな」
「スタイルすごくいいよね、白崎さん。モデルさんみたい。やっぱり普段から気をつけてるんだ」

菜穂はうんうんと頷く。ノーダメージかよ。

「私は美味しいものが好きだから食べちゃうな」
「俺、もう少し痩せてるほうがタイプなんだけど」
「えっ」
「冗談だよ」
「それ、全然面白くないからね」

菜穂といると楽だ。
何も心配しないでいいから。
亜梨紗といた時はいつも緊張していた。
彼女の機嫌を損ねるのが怖かったから。
でも、それが恋だと思っていた。

この感情はなんと呼ぶのだろう。

目の前で苺のパフェを食べる菜穂は、シンプルに幸せそうだった。

俺は菜穂に言った通り、甘いものが好きじゃない。

だけど、あんまり菜穂が美味しそうに食べているから。

「橘」
「ん?」
「貸して」

そう言った時には手を伸ばしていた。
菜穂が持っているスプーンを取り、パフェに乗った生クリームをすくった。それを口に含むと、安っぽくてわかりやすい甘さが広がった。

「うまいな」
「…でしょ?」

菜穂は俺から目を逸らして、小声で言った。
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