アンブレラ
自室に戻り、ベッドに寝っ転がる。
疲れた、と思おうとした。
でも、不思議なことにまったく疲れを感じていなかった。

あいつ、家に着いたかな。
やっぱり送ったほうが良かったな。

起き上がり、携帯電話を手に取り、見つめた。

俺から菜穂にメールしたことはなかった。

緊張しているのか?
付き合っている女の子にメールするだけなのに。

『家に着いたらメールして』

急かされるように、それだけ送った。

送信完了した瞬間、後悔のような衝動が込み上げる。

どうしてこんなに動揺しているんだ?
相手は菜穂だ。亜梨紗とは違う。
あんな地味で、どこにでもいそうな、普通の女。

可愛いと思った。
笑った顔、怒っていないくせに怒った顔をするところ、それが全然怖くないこと。
美味しそうに食べるところ、俺が亜梨紗の名前を出しても合わせてくれるところ。
俺の話を熱心に聞きながら「うん、うん」と頷いてくれるところ。そのまつげの長さを綺麗だと思った。

返信が来た。
『家、着いたよ。今日はすごく楽しかった。ありがとう』

菜穂にしては短いメールだった。
忙しいのだろうか。それとも、俺が何か気に障ることをしたのだろうか。

前のめりに転んだような気分になった。

携帯電話をベッドに放ろうとした時、再びメールの受信音が鳴った。

『初めて小田切くんからメールくれたね。びっくりして、ちょっと言葉が見つかりません。今日は本当に幸せです。ありがとう』

菜穂は俺を不安にさせたことがない。
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