アンブレラ
6月の終わりの日射しは優しかった。
菜穂の栗色の髪は、一層眩しい茶色に見えた。
やっと昼食にありつけた。
空腹のためか、冷たいカレーパンが異様なくらい美味しく感じた。
「前から思ってたんだけど、橘の髪の毛って染めてるの?」
「違うよ。生まれつき。学校にも許可取ってるよ」
「ああ…」
だから綺麗なのか。
染めたのとは違って自然だ。
空気は少し湿っているけれど、思っていたより柔らかい。
かすかに冷たい風が頬を撫でてゆく。
「今はこんなにいい天気だけど、授業が終わる頃には雨なんだって」
菜穂の横顔は空を見ていた。
その、つん、とした鼻先。
「え、傘持ってこなかった」
「小田切くん、天気予報見てる?今の時期は変わりやすいんだから」
「見てるよ。今日はたまたま忙しくて…」
「うんうん、わかってる。今日は珍しく遅刻しそうだったよね。いつもはお弁当なのに今日に限ってパンなのは忘れたからかな?」
「あんまり分析するな。食べにくくなる」
「髪の毛に寝癖ついてるよ」
「え?どこ」
「こっちだよ」
菜穂は体を傾けて、手を伸ばした。
俺の髪に触れて、指先をくるりとひねる。
目が合った。
「雨が降ったらどうするの?」
「傘買うのも面倒だし走って帰る」
「私の傘に入って帰るのはどう?」
「緑と黄色のチェック柄?」
「うん、そう」
「それだと助かる」
菜穂は笑った。
「よく覚えてるね。私の傘の色。ずっと前のメールの内容なのに」
嬉しそうだった。
笑顔なのに泣き顔のようにも見えた。
「ありがとうね。花枝がいなくて、本当は少し寂しかったんだ」
「瀬戸ならすぐ良くなるよ。いつもうるさいぐらい元気なんだから」
「それ、花枝に言っておくね」
「おい、ここだけの話だからな」
いい香りがした。
それは菜穂といる時に、よく感じる香りだった。
亜梨紗とはまったく違う。
違うのに。
「外で食べるご飯って美味しいね」
「そうだな」
いつの間にか菜穂との時間は心地良いものになっていた。
菜穂の栗色の髪は、一層眩しい茶色に見えた。
やっと昼食にありつけた。
空腹のためか、冷たいカレーパンが異様なくらい美味しく感じた。
「前から思ってたんだけど、橘の髪の毛って染めてるの?」
「違うよ。生まれつき。学校にも許可取ってるよ」
「ああ…」
だから綺麗なのか。
染めたのとは違って自然だ。
空気は少し湿っているけれど、思っていたより柔らかい。
かすかに冷たい風が頬を撫でてゆく。
「今はこんなにいい天気だけど、授業が終わる頃には雨なんだって」
菜穂の横顔は空を見ていた。
その、つん、とした鼻先。
「え、傘持ってこなかった」
「小田切くん、天気予報見てる?今の時期は変わりやすいんだから」
「見てるよ。今日はたまたま忙しくて…」
「うんうん、わかってる。今日は珍しく遅刻しそうだったよね。いつもはお弁当なのに今日に限ってパンなのは忘れたからかな?」
「あんまり分析するな。食べにくくなる」
「髪の毛に寝癖ついてるよ」
「え?どこ」
「こっちだよ」
菜穂は体を傾けて、手を伸ばした。
俺の髪に触れて、指先をくるりとひねる。
目が合った。
「雨が降ったらどうするの?」
「傘買うのも面倒だし走って帰る」
「私の傘に入って帰るのはどう?」
「緑と黄色のチェック柄?」
「うん、そう」
「それだと助かる」
菜穂は笑った。
「よく覚えてるね。私の傘の色。ずっと前のメールの内容なのに」
嬉しそうだった。
笑顔なのに泣き顔のようにも見えた。
「ありがとうね。花枝がいなくて、本当は少し寂しかったんだ」
「瀬戸ならすぐ良くなるよ。いつもうるさいぐらい元気なんだから」
「それ、花枝に言っておくね」
「おい、ここだけの話だからな」
いい香りがした。
それは菜穂といる時に、よく感じる香りだった。
亜梨紗とはまったく違う。
違うのに。
「外で食べるご飯って美味しいね」
「そうだな」
いつの間にか菜穂との時間は心地良いものになっていた。