アンブレラ
『今日はよく行く雑貨屋さんで、傘を買いました。緑と黄色のチェック柄で一目惚れです。これなら雨の日でも明るい気分になれそう。小田切くんの傘もチェック柄だよね。あの傘、とても小田切くんに似合ってるよ。チェック柄、ちょっと真似したところあるかも? うわあ、私、気持ち悪い〜〜〜引いたよね。ごめんね?』

「引いてないよ…」
呟くけれど、菜穂には伝えられなかった。

いつから菜穂は俺の傘を知っていたのだろう。
ネイビーと緑のチェック柄の傘。
特にこだわりもなく、無難だからという理由で選んだ傘。
いつから見ていたのだろう。

俺の中で、菜穂のイメージが変わってきていた。
強引に告白してきたから、付き合ったら教室でもくっついてくるのかと思っていた。
しかし、菜穂は一度も話しかけてこない。
このメールがなければ、告白されたことが夢だったと思うだろう。
菜穂は何を考えているのだろう。

それでも、俺のほうからメールすることはなかった。
菜穂の思いは気になったが、本人に訊くほどではなかった。
俺は心のどこかで自然消滅することを願っていた。
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