青春の花は素顔に咲く

「迷子なの? お姫様」
「…………」

 お姫様は何も言わずにうつむいていて。
 視線をお姫様に合わせると、ひざに血が滲んでいた。痛そう……!

「転んだの?」

 静かにお姫様は頷く。目の淵に涙が溜まっている。そんなにも痛いのか。可哀想に。

 あたしは子供用ポシェットから絆創膏を取り出し、渡した。

「はい、これ。痛いとこ洗ってから貼ってね」
「……あり、がと」

 かすれるようなか細い声でお姫様は喋った。

(声も可愛い……)

 震える手でお姫様はそれを受け取った。
 今思えば、それがカケルだったのだろう。
 だって、当時お姫様は一度も自分の性別を言わなかったし。

 そりゃ、間違える。あのルックスはお姫様でしかなかったもん。

(どうりであたしが思い出せないわけだ)

 ……そして記憶はさらに、進んでいく。
 お姫様はその後誰かに連れられて帰っていった。

 記憶をたどれば、黒服のマネージャーかもしれない、と思う。
 だけど、その記憶はまだまだ続いて。

 週に何回か、お姫様は公園にやってきた。

 そう。やってきただけで、あたしを遠くからのぞき込んでいて。
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