青春の花は素顔に咲く
「まって、黒野君っ、後で理事長室に来てくれ」

 慌ててあたしを引き留め理事長は言った。
 なのであたしはめんどくさく感じながら振り向いた。なんなんだ一体。

「……あたし何かしました?」

 ヤな予感しかしないんですけど。
 特待生が取り消しとかじゃないよね? ね?

 まさか服装がゴスロリってだけでそれはありえない……と思いたい。
 一応は私立だし、自由な校風が売りの学校だし?

 白銀みたいなのが野放しなんだから、アリでしょ? ゴスロリ。めっちゃおしゃれじゃん。ヤンキー君と違って世界のcawaiiカルチャーだよ?
 日本の誇りですよ? 自慢ですよ。遺産ですよ? 超大切な文化ですよ?

「いや、お願いがあるんだ」
「ここでいいじゃないですか。聞きますよ?」

 だから貴重な時間を奪わないで欲しい。頼むから。

「ちょっとそれは困るんだよなぁ」

 担任はしわの多い顔をくしゃくしゃにして口ごもる。
 いったい何をもったいぶってるのだ。
 困るのはこっちもだというのに。はあ。

「とにかく、昼休み理事長室! わかったな黒野」

 なぜか担任が今度は宣言するし。
 何故に? 
 でもまあ、断るわけにはいかないよね。
 行きたくないけど行かないとだよね。
 読みたい参考書あるのになあ。あーやだやだ。

「はあ……せっかくの自習時間……」


< 4 / 311 >

この作品をシェア

pagetop