昨日までを愛せますように。
晴れ渡る空を見上げて、隣の男は言った。

無言の時は続いたが、どちらも立ち上がろうとはしなかった。

特別な感情が芽生えた訳ではないが、やっぱり隣の男も直ぐには帰路には着きたくないらしい。

夕方に近付くにつれ、もうすぐ夏だと言うのに肌寒く感じる。

カーディガンをバッグの中に忍ばせておいて良かった……。

電車の中で脱いで、バッグの中から畳んでしまっておいた、薄い生地のカーディガンを取り出して袖を通した。

「夕方になると、まだ寒いよな?梅雨時期だからかな……」

「うん……寒い……」

またしばらく無言が続いたので、メンソールのタバコを差し出した。

「吸う?」

「……アリガト」

さっきと同じ、気の抜けけた『アリガト』……だった。

「アンタは吸わないの?」

「うん、私は吸わない……」
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