昨日までを愛せますように。
こんな偶然などいらない。
酒の入ったグラスが私のすぐ横を通り抜け、後ろの壁に当たり、衝撃で割れた。

粉々になったグラスの破片と酒の液体が床に広がっている。

それでもまだ足りないと言うのか、目の前の男は私の胸倉を掴み、みぞおちを殴った。

痛みよりも、息が出来ずに苦しかった事を今でも覚えている。

"幸せ"を探しに、私はあの男の元をひっそりと去った。

毎夜、鳴り響いていたスマホを解約し、新たに契約を済ませた。

あの男からも、親からも、友達からも……逃げたかった。

友達に会えば彼氏や旦那の自慢や子供の話など、私には縁のない話だから聞きたくない。

幸せ自慢を耳に入れれば入れる程、自分の事を不幸なヒロインに思えてきて、やるせなくなる。

とにかく一人になりたくて、新しく住んでいる場所は誰にも言わずに暮らして居た。

"幸せ"という程の"幸せ"は見つからないが、今の生活には満足している。

そんなある日、街の交差点で、あの男と出くわした─────……
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