王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
 咳きこみながら伸ばした手が、がつんと虎の手に当たる。
「いってぇ」「――ぁっ」
 虎が小さく叫んで。
 テンパッているおれの視界にそれは落ちてきた。
 バイブ機能のせいで、ブーブーとうなりながらテーブルの上でうごめく小さな機械。
「ごふごふ…着信? ――出ろ! ごふ。出てよし!」
 突然できた猶予期間に安どして息をつく。
 町田このやろ、説教タイムじゃ。
「うん。ちょっと…ごめんね」
 震えるスマホを引っつかんで虎が席を外したとたん、町田がテーブルに突っ伏した。
 なに?
 おれまだ、なにも言ってないけど?
 聞く前に腕をつかまれて。
 おれがどれほどの恐怖に全身をわしづかみにされたかは町田も感じているだろう。
 なにしろ町田はおれの腕をつかんでいるのにぶるぶる震えていた。
 王女さんは町田を助けなかった。
 たぶん、町田の様子に、一瞬で喉が干上がるほどの恐慌をきたしたおれに、正気を保たせるだけで精一杯で。


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