王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
 弟がゲイだったっていうだけで、どうしたらいいのかわからなくなって。
 町田にすがったせいで町田を巻きこんだ。
「兄ちゃん……」
「…………」
「おれも兄ちゃんたちみたいに、強く…なれるよね」
「…………」
 強い?
 強いってなんだ。
「兄ちゃん……?」
 虎はむかしからおれの気分には敏感だ。
 おれが今どんなに自分の無力さに打ちのめされているか。
 理由はわからないまでも、沈んでいるのくらいはわかるんだろう。
「兄ちゃんも、つらかった?」
 震える小さな声で聞かれて、もう顔がゆがむのを止められない。
 たのむぞ、町田。
 腰に回した腕で押してやる虎の身体は五十嵐ほどきゃしゃで。
「町田はいいやつだから――なんでも聞いてもらえ」
 おれではきっとわからない。
 自分らしくいることが、異常だとさげすまれるような理不尽な孤独のなか。
 虎がひとりでなにと戦っているのかは。



〔音楽室にいます〕
 おれが自分から電話もメールもする気分じゃないことに、町田はちゃんと気づいていた。
 メールがきたのは4時間目終了のチャイムのあと、補講が終わった瞬間だ。
 勉学中に他のことを考えさせない配慮。
 ずっと理不尽に傷つけられてきた男は優しい。

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