王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
 おれがつかんでやる。
 おれが見てやる。
 おまえを絶望のどん底に突き落とすやつの正体を。
「…ゃ、なに?」
 状況についてこられないまま、虎が尻で床をずりさがった。
「いいから、よこせ。3度は言わねえ。よこさなきゃ――ぶんどる」
「ゃっ、なに?」
 もう、おれにも見える。
 ぶんぶんと首を横に振る虎の顔は真っ白だ。
「よこせ」
「いやっ」
 虎は必死だ。
 なにしろおれに逆らえている。
 ガタガタ震えて言うことをきかなくなったらしい身体を丸めて胸の下に小さな機械を抱きこんだ。
「虎之介!」
 名前が虎を苦しめてきたことも、もう知っているのに。
 いじわるな兄にまで痛めつけられて、虎の身体がびくんと弾む。
 その一瞬に、おれの手は虎の手に届いた。
 町田には勝てなくても虎になら充分おれの力も通用する。
「いや――っっ!」
 ぶんぶん頭を振ってあばれる虎の手を、がっしり握って胸からはがす。
「ぃやぃやぃや――っっ」
 虎が泣きだす。号泣だ。
 おれはスマホを握った虎の手をつかんで虎の身体を引きずった。
 近くにいたら気絶していても絶対に町田がヤバイ。
「いや――っ。も、許して。なんでもする! なんでも、する――っ」
 そうだな。
 これまで15年、本当にいやがることは絶対にしなかった。
 泣かせたことはあっても、泣けば必ずごめんと謝って抱きしめてきた。
 ここまで泣けば、これで終わる、そう思うよな。
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