王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
 そんなやつだから、じゃあ答えが出せないものってなによ? とか。
 こっちも意地悪くツッコメないわけだけど。
 仕方なく(はし)を置いたおれの目の前で、虎がもう皿を盆にのせている。せっかちな。
「で。おまえのほうはいつからなの? その講習」
「8月14日からだけど――――」
「なんだよ。あんま気乗りしてるふうでもないな? もう夏バテか?」
「ううん。ちょっと…、お年玉もお小遣いも使わずに…、一所懸命貯めた4万円だな…って思って」
 思ってため息?
 今さら?
「おまえなら、そもそも学習塾の講習なんか行かなくても、うちの高校くらい受かるだろ」
「でも講習くらい行かないと――仲間はずれになっちゃうし」
「ちっせえ世界だな。勉強までお手々つないで、かよ」
「そんなんじゃないけど! ひとりぼっちより…いいよ。仲間がいるのは……」
 わが弟ながらマジへたれ。
 中3にもなって群れ症候群て、成長度数が低すぎないか?
 町田みたいに、どうにも他人となじめないアビリティーを持ってるってんならともかく。
「…………」
 思った自分の頭をかきむしって現実直視。
「そんじゃ、その講習が始まるまではどうするんだよ。こう暑くちゃ家で勉強なんかできねえだろ。図書館でも行くのか。毎日朝からエアコン使ってたら、来月通帳見て気絶するぞ、おふくろ」
「平気。学校もクーラーなんてないし慣れてる。知らないひとだらけのところ…こわい、し」
 こわいって……。
 見ず知らずの他人なんて、いないことにしておけよ。
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