真夜中のサイコパス
「そうだよね。

咲良が木村菜々子を階段から突き落とすはずがないよね……」


私は優子がつぶやくようにそう言った言葉にホッとしていた。


でも、私がホッとしていられたのは、ほんの一瞬のことだった。


「私は咲良を誰よりもよく知っているから、咲良が誰かを傷つけるような人じゃないってわかっているよ。

でもさ、木村菜々子が階段から突き落とされてケガをしたって聞いたとき、私は里山高校の都市伝説のことを思ったの。

里山高校の都市伝説に出てくる浜中美澄は大好きな人を友達に奪われて、その友達を殺したよね。

浜中美澄は恋に狂ったサイコパスだよ。

もしも浜中美澄だったら、恋敵を階段から突き落としたりもするのかなって……。

自分の好きな人を奪おうとする人を殺そうとするのかなって……」


私以外のクラスメイトが優子の話を聞いたら、優子の話は飛躍し過ぎていると思うだろう。


だけど、私には優子が私に言いたいことがよくわかった。


なぜなら、一年三組の教室で浜中美澄の幽霊を呼び出したとき、私の中に浜中美澄が入っていくのを優子は見ていたから。


浜中美澄の幽霊が今でも私に取りついていると、疑うだけの事実を見ていたから。


私は優子に自分のすべてを見透かされているような気がしていた。


そして優子が私の犯した罪の証拠を見つけるような気がしていた。
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