真夜中のサイコパス
「とっても素敵な映画だったね。

私、感動したよ」


浜中美澄が私の体にそう言わせていた。


私はそのことに怒りを覚えた。


「そうだな。

オレもいい映画だと思ったよ」


「そうだよね。

私ね、こんな素敵な映画をこれから何度も拓実君と見にきたい。

それでね、拓実君との思い出をたくさん作りたい」


私と拓実が見つめ合って、二人のこれからを話すことは私の夢だった。


でも、たとえ夢が叶っても、そこにいるのが偽物の私だから、私の感情は動かなかった。


大好きな拓実がすぐ近くにいるのに、絶対に手が届かないくらいに拓実を遠くに感じるのだ。


それはまるで映画のスクリーンに映っている別の世界みたいだ。


私は自分の意思が反映されない仮想現実に生きている?


だとしたら、浜中美澄が仮想現実の主役で、私はただの傍観者?


だとしたら、私はみじめだ。


私はもう誰でもない。


私はもう浜中美澄の付属品だ。
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