真夜中のサイコパス
「午後七時、一分前だね。

それじゃ、そろそろ始めるよ」


優子はそう言うと、ポケットに忍ばせていた手鏡を教壇の上に置いて、それを生徒たちの机の方へ向けた。


そしていつもの優子とは違う大きな声で、美澄に話しかけるようにこう言った。


「浜中美澄の幽霊よ、この教室にいるのはわかっている。

あなたの火傷でただれたその顔がこの鏡に写っているから」


私は優子のとなりで優子の言葉を真剣に聞いていた。


本当に優子は浜中美澄の幽霊を呼び出すことができるのかと思いながら。


「私たちはあなたにお願いしたい。

あなたの力で恋敵に勝ち、恋が成就することを。

私たちはあなたが幸せな女性を憎んでいることを知っている。

あなたがキレイな女性を憎んでいることを知っている。

私たちはあなたに助けて欲しい。

真剣な恋を成就させるために」


優子が里山高校の都市伝説にあるセリフを一通り言い終えると、誰もいない教室はしんと静まり返っていた。


私は息をのみながら、この教室になにかの変化が起きることを期待していた。


でも、私たちが期待していたようなことがなにも起こらないままに時間だけが過ぎていった。


そして優子が都市伝説のセリフを言ってから五分が過ぎようとしていたとき、私は小さなため息をついて、優子に言った。


「変化はなにもなし。

いつもと変わらない一年三組の教室だよ。

里山高校の都市伝説もただのウワサ話だったみたいだね」


私のその言葉で張り詰めていた空気が一気に緩んだ。


ワクワク、ドキドキしていた都市伝説の検証も、結果はこんなものなのだ。


私はそう思ってがっかりしながら、優子に目を向けていた。
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