真夜中のサイコパス
「ねぇ、咲良。

体をよこせってどういうことだろう?

もしかして咲良が呪われちゃうんじゃ……」


小声でそう言った優子の言葉が私の心を凍りつかせた。


私が呪われる?


そんなことって、絶対に嫌だ。


私は私の体をこの悪霊には渡せない。


私がそう思って浜中美澄の幽霊から離れるために後ずさりしたとき、浜中美澄の幽霊が不気味に笑いながら、私の方へと近づいてきた。


私は浜中美澄の幽霊が恐ろしくて、彼女に背を向けると、この教室から逃れるために、必死になって教室のドアを開けようとしていた。


でも、教室のドアはさっきと同じようにピクリとも動かず、開く気配が少しもなかった。


私は心の中で「助けて!」と叫びながら、早くこの教室から出たいと真剣に願った。


里山高校の都市伝説のウワサを知って、浜中美澄の幽霊を呼び出したのは、きっと間違いだったのだ。


私がそんな後悔の念で胸の中がいっぱいになっているとき、後ろから優子の慌てた声が聞こえてきた。


「咲良、後ろ!

浜中美澄の幽霊が咲良のすぐ後ろまで来てる!」


私は優子のその言葉を聞くと、心臓が止まるような思いで、反射的に後ろを振り返っていた。


そしてそのとき、私はすぐ後ろまで迫っていた浜中美澄の火傷でただれた醜い顔を間近で見てしまった。


私がその醜い顔にゾッとして悲鳴を上げそうになったとき、浜中美澄の幽霊の青白い手が私の口の中に入ってきた。


そればかりか、浜中美澄の体は青白い光となって、私の口からスルリと私の体の中に入っていったのだ。


私は口から入っていったその青白い光を吐き出そうとしたが、無理だった。


私はそのことにゾッとして、生きた心地もしないままに青ざめていた。


(ウソでしょ。

浜中美澄の幽霊が私の体の中に入っていった……。

これから私はどうなるの?

私の体は大丈夫なの?)


浜中美澄の幽霊がいなくなった教室は、また光を失って暗くなり、しんと静まり返った教室の中で、私の心は不安で満たされていた。


「咲良、大丈夫?

体の具合はおかしくない?」


今、ここで起きたことのすべてを見ていた優子が私を心配して、私に話しかけてきた。


(私の体は大丈夫?

もしかして、浜中美澄の幽霊が私の中に……)


私は沸き上がる不安の中で、その答えを探していた。
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