望月に君と会えたら。



____ もう死んでしまいたい。








私立高校に通う高校二年生、豊永楓は人を恐れていた。
人が怖く、自ら壁を作り、人と接さないでいた。

トラウマ。それが全ての原因だ。
中学生の頃、自分のせいで1人の友達が亡くなった。
それが怖く、恐ろしく、ずっと彼女の胸を縛り、いつしか心さえもを束縛していた。

.. でも、今日でそれは終わるのだ。
暗く、苦しく、淋しい人生も今日で終わりだ。
なんせ私は今から死ぬのだから。

( やっと、やっと終わるんだ。やっと、この罪悪感と虚無感から逃げられる。開放される )

迷う理由などひとつも無かった。
彼女は1人だったから。
親は離婚し、母親は夜遅くまで仕事。彼女に関心を向ける者など誰一人もいなかったから。


屋上のフェンスに足をかける。
もう遅いこともあり、住んでいる301号室から屋上に行くまでの間、マンションの住民に誰一人も会わなかった。
死ぬ時までも1人なんだな、と自嘲気味に笑う。
そんな私を何も言わずにただただ照らす満月。


( 満月、ああ、望月とも言うっけ )

そんなどうでもいいことを考え、月を見た。
ああ、綺麗だ。
最期まで独りなのは笑い話だが、こんなに綺麗な望月をみれたのだからもう悔いはない。

体がフェンスを超え、ついに前へ進めば落ちる。
そんなところまで来た。


人生、いろいろあった。
恨まれるだけの人生だったように思える。
楽しかったのは、あの頃だけだ。

.. 最も、あの頃を壊したのは自分なんだけど。

馬鹿馬鹿しい!死ぬ間際にまでこんなことを考えたくはない。
そう思い、ポケットに常備している大好きなキャンディーを口に含む。
とても甘いそれは、自分を甘さで酔わせてくれているような気がした。


「できることならば、来世は ... 」


もう生まれてきたくないな。

そう心の中で呟き、足を勧め、私はふっと宙へ浮いた。

.. 空を飛ぶって、こんな感覚なんだな。
きっと地獄行きだ、こんな女は。
まあそれも悪くないか、ここから逃げれるのだから。

地面が見える。
反射的にぎゅぅっと目を瞑ると、痛みが襲う前に気づけば私は意識を失っていた。
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