キミから「好き」と、聞けますように。

一曲、一曲丁寧に歌いあげていく鈴李さんは、やっぱり素敵な人だ。



「では、最後。鳴いた胸の声」



ビクン、とわたしの体がジャンプしてしまった。


当然そんなことも知らない鈴李さんは、『鳴いた胸の声』のイントロを、ギターで弾いていく。


思わずわたしは、パソコンの電源を切ってしまった。


そばにあった、ハリネズミのぬいぐるみにそっと顔を埋めてしまう。

それでも、心臓は落ち着くどころかドクドクと激しく鳴き続けている。


歌詞にある、切なく鳴くような感じじゃない。


激しく、大きな声を上げ続けて泣いている。



『へぇ、上手いじゃん』



あの時、東條くんが言ってくれたこと。


だけどもう……きっと一緒にカラオケに行ったとしても、あの時の嬉しさは戻ってこないだろう。


あの嬉しさは、いつしか海に流されるようにわたしから離れて、もう心の中に存在していない。

ひなには悪いけれど、希望はどうしてもネガティブな気持ちに潰されてしまうばかりだ。


気がつくと、鈴李さんの配信は終わっていた。



「……あっ」



どうやら鈴李さんは、鳴いた胸の声を歌った後、お知らせをしたらしい。


12月19日に、クリスマスライブをするというお知らせだった。




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