キミから「好き」と、聞けますように。
第5章 キミの気持ちと、わたしの気持ち
紗雪side
『……紗雪さんには、APD、の診断結果がつきました』
『エーピー、ビーですか? それとも……』
『ABCDの“D”です』
お医者さんは、“D”と分かりやすくするために、『ディー』というより『デー』と発音してくれた。
これは、わたしが中学1年生の頃に心療内科へ行った時のことだった。
ある日、他の人よりも言葉を聞き取りにくい、というわたしに当てはまっている……APDについてテレビのニュースで放送されていたことを見たお母さんが、もしかしたらと思い、心療内科へと連れて行ってくれた。
だけどこの3文字のアルファベットを聞いても、わたしにはピンと来なかった。
APDは、聴覚情報処理障害のこと。
『聴覚は正常であるにも関わらず、聞き取り困難を有する障害』……。
聞き返しや聞き誤りが多く、特に早口や小さな声を聞き取ることが困難……。
耳で聞いたことは、すぐに忘れることが多い……。
100人に1人……。
ってことは、3クラスに1人はいるかいないかくらい、という感じなんだろうか……。
ということは、うちの学校にも他に誰かわたしと同じ聴覚情報処理障害の子がいるはずだ。
その子は、どうやって過ごしているんだろう。
わたしは先生がお母さんに話をしている間にも、初めて聞いたその障害について考えながら胸の辺りにある服をぎゅっと握った。