キミから「好き」と、聞けますように。
ひながわたしを連れて行った場所は、踊り場だった。
幸い、誰もいない。
「紗雪。やっぱりまだ、揺らいでいるんでしょ」
眉間にしわを寄せて、ひなはわたしをまっすぐ見ている。
「……東條くんのこと」
東條くんと名前を出されると、わたしの手は無意識にギュッと握った形になる。
「わたし、知ってるもん。紗雪が、なかなか自信を持てないこと」
眉を下げて、手は後ろに絡めて、ひなはなんだか切なそうな表情をした。
「だから言わないよ。自信持って、なんか。そんなことで紗雪が自信持てるんだったら、とっくに持ててるもんね」
「ひな……」
「でもさ」
ひなは、唇を噛み締めてからしばらくの間、黙った。
けれど、その口はすぐに開いた。
「好きなら、好きでいなよ。せっかく好きになった人を、嫌いになろうとなんて頑張ることないよ」
ひなの言葉で、わたしはなんだか救われた気持ちになった。
好きなら、好きでいる。
そうするつもりでいるのに、なぜかひなに言われるとなんだか自分の気持ちを認めてもらえたような気がしたからだ。
「わたしは、紗雪に、報われてほしいんだけどね」
ひなの口から出る言葉は、やっぱり寂しい響きを放っていた。