キミから「好き」と、聞けますように。
「かんにいに! どうしたの?」
プールに着いて、俺がずっと無表情で座っていることに不思議に思ったようで、七菜は俺の前に立ってじっと見ている。
そういえば、七菜は知らないんだった。
温森が、聴覚情報処理障害があることを。
当たり前なんだけど、知ったらこいつはどうなるんだろう。
まあ、七菜は温森のことが好きだから、見捨てるなんてことは絶対しないだろうけど。
いつか、きっと七菜だって温森ではない聴覚情報処理障害者とすれ違うだろう。
「ねえ、かんにいに! きいてるの?」
頬をぷぅっと膨らませて、手を腰に当てている七菜の姿だった。
「どうしたの、ぼーっとしちゃって」
「ごめんごめん。平気だよ。ちょっと勉強で疲れただけ」
「およがないのー?」
「なんだー、またあの女の子のことで悩み事か」
さっきまでバタフライをしていた兄貴が、いつの間にかプールから上がってきていた。