キミから「好き」と、聞けますように。
俺が温森のことをこんなに考えていなかったら……。
「あとさ」
「ん?」
「お前、もうちょい整理したら?」
そう言っている兄貴は、いつの間にか呆れ顔になっている。
「は?」
「好きっていう気持ちの整理。あのな、どこが好きなのかってことを思い出すんだよ。それを考えていないから紫杏ちゃんと重ねてんだよ」
……ああ、そうか。
どこが好きか。
その言葉が、鍵となって俺の記憶の扉が開いては、どんどん出てくる。
鈴李の曲が大好きで、歌詞をノートには書かずにいられないくらい、没頭してしまう温森。
言葉を聞き取りづらいことを気にしていて、消極的になってしまう温森。
それなのに、俺が鈴李の歌を歌ってほしいとお願いすると、きれいな声と笑顔で歌う温森。
好きなものを全力で愛するところ、謙虚なところ……そして、あの時のことだった。
俺は、あのことを直接間近で見てしまったんだ。