異常な君は、異常なモノが分からない
、記憶
初めてあった日のことを勿論僕は覚えている。けれど、それよりもずっとずっと印象的で、海馬に刻まれ、網膜に焼き付いたのは、彼女の母親の葬式だった。
黒に染まる景色の中で、たったひとりだけ、キラキラと輝いて見えていた彼女。ポロポロと静かに、宝石のようなその瞳から涙を流す彼女はまるで絵画のようで、式の間中ずっと、僕は彼女から目を離すことが出来なかった。
彼女を護ろう。躊躇うことなく己の中でたてた誓い。そろりと彼女に近付き、「ぼくはずっと、そばにいるからね」と彼女を抱きしめた当時の僕は相当キザでませていたのだろう。けれども大人達は、これを微笑ましいと涙ぐみ、僕を褒めた。今ならば、子供だから微笑ましかっただけだと分かるけれど、当時の僕にとっては大人達からの承認でしかなかった。
ぱちりと大きな瞳を瞬かせて、「ほんと? やくそくだよ」と、ぎこちなく、けれど精一杯微笑もうとしていた彼女のそばに、僕は文字通り、ずっと、そばにいた。
小学生の時は、一日も欠かさず登下校を共にした。「らぶらぶかよー」とからかってきた同級生はちゃんと階段から突き落とした。その同級生が偶然にも気絶をしたから、ついでに錆びた釘でふくらはぎを抉っておいた。
中学生の時は、付き合ってる、っていう噂を流した。実際、二年生に進級してから僕らは恋人になったけれど、彼女に集るハエは叩き落とさないといけない。それでもなお集ろうとするハエ達には家の郵便受けに、貿易用のコンテナに紛れ込んで、探せばまぁまぁ見つかるヒアリをありったけ詰め込んでおいた。